捨てられていたスーパーフードアカモク(別名ギバサ)とは?その効能は?
引用元 : 岩手アカモク生産協同組合
アカモク?
完全に“?”な状態でした。
見た目はもずくにも似ているし、めかぶにも似ている、でも名前はアカモク。
秋葉原の高架下にちゃばら(CHABARA)という日本全国のローカルフードを集めたお店があり、そこでふと目にしたのがこのアカモクでした。
手に取って迷った末、いや迷った時は“買え”の信号だと買って帰り、その後一体このアカモクとはなんなのかということも調べてみました。
そこで分かったのが、アカモクは食べられるどころかこれまで全て捨てられていたということでした。
かなり驚きました!!
アカモクが食品として認識され、今やスーパーフードとしても注目されるようになったのには、一体どのようないきさつがあったのか見ていきたいと思います。
目次
アカモクが注目されるようになった歴史
引用元 : 岩手アカモク生産協同組合
アカモクは実は日本全国に分布する海藻です。
ですが、残念なことにこれまではその大半がゴミとして捨てられてきました。
正確に言いますと、秋田県と山形県と石川県といった日本海側の一部の地域だけは食用とする習慣がありました。
ですが、その他の地域では漁業関係者からむしろ厄介者として扱われ捨てられてきたのです。
なぜアカモクは漁業関係者から嫌われ、ゴミとして処分されてきたのでしょう?
それは、アカモクが漁船のスクリューに絡みついて、漁の邪魔となっていたからです。
また、カキの養殖施設でも、アカモクが付着すると海中に入る日光が遮られてしまうため、これを手作業で全て取り除く必要がありました。
食用となるどころか、その存在自体が漁業の足かせとなっていたために捨てられたのです。
それが一体なぜ突然注目を集め始めたのでしょうか?
林利光教授によりアカモクの効能が研究で発表される
きっかけは1998年に富山医科薬科大学の林利光教授が発表した研究です。
アカモクに含まれるエキスが、エイズウイルスの増殖を抑える効果があることが発見されたのです。
これによりアカモクの食品としての効能に注目が集まり始めました。
高橋清隆さんが岩手アカモク生産共同組合を立ち上げる
エイズを抑える効果がある海藻として、マスコミでも取り上げられ始めたアカモク、この話にいち早く着目したのが岩手アカモク生産共同組合の代表理事である高橋清隆さんです。
当時は中国から安いワカメが入ってきはじめ、漁協も問屋を通さない直取引が開始されたことで、高橋さん自身も何か新しいことを始めなくてはならないという危機感を抱いていました。
幸いなことに岩手県の山田町はカキの養殖が盛んな地域だったので、アカモクはいくらでもカキ棚付近から採取することができました。
そこで高橋さんはこのアカモクに可能性を見い出し、地域を活性化させようと父親とともに岩手アカモク生産共同組合を創設したのでした。
ですが、その道のりは平坦なものではなかったそうです。
アカモクを取ってくれる漁師を探そうと話を持っていっても、誰にも引き受けてもらえませんでした。
そもそもこれまで厄介者扱いされ、捨てられていた海藻だったので、無理もない話かもしれません。
お金になるかどうか全く分からない海藻を集める時間があったら、その時間を実業の漁にあてたい、そうなるのも無理はありません。
また、もう1つの問題はアカモクに見た目はそっくりでも実際は味も全く違う海藻の存在があったことです。
プロの漁師でもこの2つの違いを見極めることは非常に困難でした。
目利きの技術の習得にも時間を費やさなくてはならなかったのです。
ですが高橋さんは諦めずに声をかけ続け、その内に少しずつアカモクの採取をしてくれる漁師が現れ始めました。
2年に渡る研究の末、2000年には初めてアカモクを商品として地元岩手で営業を始めました。
ですが、これも最初の漁師探しの時のように全く見向きされませんでした。
というのもアカモクは全く知名度がなく、話をしても、“これは何?”、“食べられるの?”、という反応だったそうです。
東京への進出で火がつく
そこで岩手だけでなく、首都圏にも進出して営業をかけると、これが受け入れられました。
とりわけ、首都圏のレストランに絞って営業をかけました。
東京は全国各地の食べ物が集まるので、未知のものでも受け入れる体制があったのだと思います。
むしろ未知のものこそ面白いと受入れられる気がします。
また、健康ブームもどんどん拡大しているので、アカモクそのものが持つ効能にも関心が集まったのだと思います。
2010年にはイトーヨーカドーにも卸すことになり、ここで事業が軌道に乗り始めます。
イトーヨーカドーに置くことになれば、多くの消費者の目にも触れることになります。
認知度も一気に高まり、生産量も倍増しました。
東日本大震災で壊滅的なダメージを受ける
ようやく黒字化し軌道に乗ってきたところ、2011年3月に東日本大震災が起こります。
津波によりアカモクも根こそぎ流されてしまいます。
それでも工場だけは津波と地震の被害を免れます。
自分のことだけを考えるのでしたら、山田町のアカモクにこだわらなくても他地域のアカモクを販売し商売することもできました。
ですが、地元の漁師が苦境に立たされている中、自分だけ商売することに疑問を感じ、高橋さんはアカモクの持つ生命力をただ信じその復活を待ち続けます。
アカモクの生産量の復活、販路が再び拡大する
アカモクは、また少しずつではありましたが採取ができるようになりました。
ただ放射能の不安もあったため、検査に出す必要がありました。
幸いなことに放射能がアカモクから検出されることはありませんでした。
2013年にはようやくアカモクの販売を再び開始できるようになりました。
ピーク時に比べると5分の1以下の生産数でしたが、その後も徐々にアカモクの生産は増え始めました。
またイトーヨーカドー以外にマルエツやいなげやといった大手のスーパーにも卸すことができるようになりました。
2015年には26tまで生産数が復活し、2017年にはようやく震災前と同じ生産量まで戻すことができたそうです。
現在は“たけしのニッポンのミカタ!”といったテレビ番組や、“日経トレンディ”等の雑誌にも取り上げられ、益々アカモクの注目度は増しています。
アカモクの別名
アカモクは実は都道府県によって本当に様々な呼び名がつけられていました。
モク(北海道)、ギバサ・シバサ(秋田県)、キバ・ジロモ(岩手県)、ジャマモク(宮城県)、ギンバソウ(山形県)、ナガモク(千葉県)、ハナタレモク(神奈川県)、ナガモ・マメタワラ(新潟県)、ナガラモ(富山県)、ハナマツモ(石川県)、ギンバ(京都府)、クソタレモク(三重県)、ホソメモ(鳥取県)、ガラモ(香川県)ハナタレモク、神馬草・上馬草(山陰地方)
自分はそもそもアカモクの存在自体を知らなかったのですが、これだけいろいろな呼び名がつけられているということは昔から日本にはゆかりのある海藻だったということですね。
それにしても、ハナタレモクにクソタレモク、更にはジャマモクと(もはや完全にストレート・・)、その散々たる呼び名から、どれだけアカモクが漁業に取っては厄介な存在だったかがうかがい知れます。
一方で山陰の一部の地域では神馬草と神馬のための草といった名前で呼ばれ、真逆の評価を受けていたことが分かります。
いずれにしても、ここにきてようやく全国的にその価値が再評価され、日の目を浴びたということですね。
アカモクの効能
引用元 : 岩手アカモク生産協同組合
フコイダン
ぬめり成分、またはネバネバ成分として知られるフコイダンには様々な効果があると言われています。
コレステロールの低下、血圧の上昇の抑制、肝機能の改善、インフルエンザに対しての予防効果、腸管の免疫細胞を活性化等です。
ぬめり成分は海藻自身が激しい海流や外的刺激、海中から出た際の乾燥から身を守るためにも利用されます。
これが免疫力を高めるのに一役を担うわけです。
また、フコダインは水溶性食物繊維としての役割も担います。
その総食物繊維量はワカメやメカブよりも多く、食物繊維を摂取することで腸内環境を整えてくれます。
腸内環境が良くなると、結果的に免疫力の向上にも繋がっていきます。
フコキサンチン
フコキサンチンは海藻だけに含まれている赤色の色素成分のことです。
海藻の中でも、アカモクは特にこのフコキサンチンをワカメの3倍、コンブの5倍と豊富に含んでいます。
フコキサンチンは強力な抗酸化作用を持ちがん細胞の増殖抑止効果もあると注目を浴びています。
また、フコキサンチンには脂肪燃焼を促す効果もあると言われます。
マウスの実験では、定期的にフコキサンチンを与え続けた結果、内臓脂肪の顕著な減少が確認されています。
アメリカでも白人女性を対象に16週間に渡り、フコキサンチンを1日2.4ミリグラム摂取する試験を行った結果、体重及び体脂肪の大幅な減少が確認されています。
アカモクの食べ過ぎには注意
アカモクが身体に良いからと、毎日過剰に取るのはそれはそれで問題があります。
というのも、海藻類はヨウ素を多く含むからです。
アカモクも例外ではありません。
ヨウ素は甲状腺ホルモンを形成している構成養素のことです。
基礎代謝を高めたり、人間が生きるのには欠かすことのできない栄養素です。
ですが、過剰摂取はあまり健康によくない場合があります。
と言っても何か具体的な研究がされ、具体的な健康被害が確認されているわけではありません。
むしろ不足していることが海外では問題となっているケースもあります。
オーストラリアやニュージーランドでは、国民のヨウ素不足が問題視され、パンなどにヨウ素を添加することになっています。
実は日本人に関しては、むしろヨウ素は十分過ぎる程摂取できています。
というのも、日本人はワカメや昆布等の海藻類を普段から食べたり、だしとしても使用しているからです。
確かにお味噌汁等は毎日食べる習慣がある人も多いと思います。
2015年に厚生労働省が発表した摂取基準量は、成人男性・女性ともに一日130μg(マイクログラム)です。
日本人は既に一日1000μg~3000μgものヨウ素を摂取し、厚生労働省が推奨する摂取量を大幅に上回っています。
ヨウ素の耐用上限量は一日3000μgと言われているので、人によっては健康に問題がないとされるぎりぎりの上限まで取れているケースもあります。
この3000μgを超えて摂取したら危険かというとそうも一概には言えません。
なぜなら一時的に過剰に摂取したヨウ素は尿とともに体外に排泄されるからですです。
甲状腺に異常がある場合等はヨウ素の摂取に十分な注意が必要ですが、通常の生活で一時的に多く取ってしまったぐらいでしたらそこまで過敏になる必要はないと感じます。
どんなこともそうですが、バランスよく程々に取ることが望ましいですね!
水質改善・生態系保全にも貢献
アカモクは人間の身体だけでなく、地球環境にもプラスに働きます。
アカモクには赤潮を防ぎ水質を改善する働きがあるのです。
アカモクは赤潮の原因ともなるプランクトンが食べるリンや窒素を食べて成長するので、結果的にアカモクが繁殖するところには赤潮は基本的に発生しにくいのです。
それ以外に、アカモクは海中に生態系を作り出します。
メバルやハゼの隠れ家となり、エビや小魚も生息し、アイナメの産卵場所ともなっています。
アカモクがあることでそこに新たな生態系が生み出されるのです。
現在アカモクは食用としてだけではなく、海洋環境を保全する意味合いにおいても大きな注目を集めています。
実際に宮城県から千葉、佐賀県とその他にも日本各地から様々な場所でアカモクを使った海洋保全・水質改善プロジェクトが実施されています。
まとめ
アカモクが商品化されるまでの話を知って、ふと、寿司のトロの話を思い出しました。
今でこそ高級で高いイメージのトロですが、そもそも江戸時代、というか1960年代頃までは捨てられていたそうです。
ほんの50年前までトロは捨てられていたのです。
理由は日本人の口に合わない、プラスで傷みやすいといったことからだそうです。
仮に売られていたとしてもかなりの格安で、本当にお金に苦しむ苦学生が食べていたようです。
今と真逆の評価です。
この他にも全く価値がないとされ見向きもされなかったものが、突然その大きな価値を見いだされていった例はいくつかあったりします。
自分達が普段見ているものでも、実は見えていて見えていない、慣れてしまって気付いていない、見渡せばそんなものやことが案外身近にはあるのかもしれません。